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なぜDX推進は現場に届かないのか ― 現場が動くのは「未来」が見えたとき

なぜDX推進は現場に届かないのか ― 現場が動くのは「未来」が見えたとき
目次

企業のDX推進を支援していると、こんな声をよく耳にします。

「Microsoft 365を導入したのに、一部の人しか使っていない」

「Copilotの説明会を開催したけれど、その後の活用が広がらない」

「Power Platformの研修を実施したのに、実際の業務改善につながっていない」

DX推進担当者からすれば、ツールを導入し、研修を開催し、マニュアルや活用事例も用意している。それでも現場がなかなか動かない。

すると、つい「現場のITリテラシーが低いから」「新しいやり方への抵抗感が強いから」と考えたくなります。

しかし、私は企業のDX推進を支援する中で、必ずしも現場だけに原因があるわけではないと感じています。

むしろ大きな原因の一つは、DX推進担当者と現場との間にある「見えている未来の違い」です。

DX推進担当者には、新しいツールを導入した後に業務がどう変わるのかが見えています。一方、現場の社員には、その未来がまだ見えていません。

「Copilotを使いましょう」

「Power Automateで自動化できます」

「SharePointを活用しましょう」

そう説明されても、現場からすれば、「それを使うと、明日から自分の仕事がどう変わるの?」が分からないのです。

さらに実際の現場では、担当者自身は業務を変えたいと思っていても、課長や部長などの管理職が従来のやり方を変えることに慎重で、改善が止まってしまうケースもあります。

DXが進まない理由を、単純に「ツールが使えない」「現場が変化を嫌っている」と捉えてしまうと、本当の問題を見誤ります。

この記事では、私が実際に企業のDX推進を支援する中で感じてきたことをもとに、なぜDX推進が現場に届かないのか、そして現場を動かすためにDX推進担当者は何をすべきなのかを考えていきます。

DX推進担当者と現場では「見えている未来」が違う

DX推進担当者は、新しいツールを見ると、その先にある業務改善まで想像できます。

例えば、現在こんな業務があったとします。

現在の業務

  • メールを受信する
  • 添付ファイルを保存する
  • Excelに内容を転記する
  • 担当者へメールする
  • 進捗を確認する

Power AutomateやSharePointを理解しているDX推進担当者なら、これを次のように変えられると比較的簡単に想像できます。

改善後の業務

  • フォームで受付
  • データを自動登録
  • 担当者へ自動通知
  • 一覧で進捗管理

だから、「Power Automateを使えば、この業務はもっと効率化できます」と説明します。

しかし、現場側から見えているものは違います。

現場の社員が毎日見ているのは、Power AutomateでもSharePointでもありません。

自分が担当している仕事そのものです。

「このメールを確認する」「このExcelに入力する」「この人に連絡する」という仕事を毎日行っています。

そこへ突然「Power Automateを活用しましょう」と言われても、自分の仕事と新しいツールが頭の中でつながらないのです。

ここに、DX推進担当者と現場の大きな認識差があります。

ツールを見せるのではなく、未来の業務フローを見せる。

私は、これがDX推進において非常に重要だと考えています。

DX推進が現場に届かない5つの理由

では、なぜDX推進は現場まで届かないのでしょうか。

実際の支援現場を見ていると、いくつかの共通したパターンがあります。

1.ツールから説明している

よくあるのが、「Copilotならこんなことができます」「Power Automateを使えば自動化できます」「Teamsにはこんな機能があります」という説明です。

もちろん、ツールの機能を知ってもらうことは必要です。

しかし、現場の社員が知りたいのはツールの機能そのものではありません。

「それで自分の仕事がどう楽になるのか」です。

例えば、「Copilotにはメール要約機能があります」だけでなく、「朝一番に大量のメールを一件ずつ確認するのではなく、まずCopilotで要点と対応事項を整理し、自分が対応すべきメールから確認する働き方に変えられます」と説明する。

同じCopilotの説明でも、後者なら自分の仕事と結びつきます。

DX推進では、手段からではなく仕事から考えることが重要です。

2.導入後の「未来の業務フロー」が共有されていない

ツールの機能を理解しただけでは、人はなかなか行動を変えません。

新しいツールを導入すると、次のようなことが変化します。

  • 誰が使うのか
  • いつ使うのか
  • 今までの何がなくなるのか
  • 何が自動化されるのか
  • 自分は何をすればよくなるのか
  • 他の人とのやり取りはどう変わるのか

つまり必要なのは、「このツールを導入します」ではなく、「このツールを導入すると、皆さんの仕事はこう変わります」という説明です。

DX推進担当者の頭の中には、このAfterが見えていることがあります。しかし、それを現場も同じように見えていると思ってはいけません。

現在の業務と未来の業務を並べて見せる。

これだけでも、新しいツールへの理解は大きく変わります。

3.管理職が「今のやり方」を変える理由を持っていない

DX推進の現場で、もう一つ大きな壁になるのが管理職です。

担当者自身は「この業務を変えたい」と思っている。DX推進担当者も「この方法なら改善できる」と考えている。

ところが、課長や部長から「今までこの方法で問題なかった」「本当に変える必要があるのか」「何か問題が起きたらどうするのか」と言われ、改善が止まってしまう。

私は実際の支援でも、こうした場面を何度も見てきました。

ただし、これを単純に「管理職がDXに抵抗している」と考えるのも違うと思います。

管理職からすれば、現在の方法は少なくとも動いています。手順も分かっている。部下もやり方を知っている。何か起きたときの対処方法も分かっている。

一方、新しい方法へ変更すれば、「トラブルが起きないか」「セキュリティ上問題はないか」「部下が使いこなせるのか」「失敗した場合、誰が責任を持つのか」という新しいリスクが生まれます。

そう考えれば、管理職にとって「変えない」という判断にも合理性があります。

だからこそDX推進担当者は、「新しいツールの方が便利です」と説得するだけでは不十分です。

  • 何がどう変わるのか
  • どのくらいの効果が期待できるのか
  • まずどこまで小さく試すのか
  • 問題があった場合はどうするのか

管理職が意思決定できる材料まで用意する必要があります。

4.研修や説明会をすれば浸透すると考えている

DX推進施策では、研修や説明会がよく行われます。

私自身もMicrosoft 365や生成AIなどの企業研修を数多く行ってきました。

だからこそ強く感じるのですが、研修だけでDXが進むわけではありません。

研修でできるのは、「こんなことができるんだ」と知ってもらうところまでです。

本当に難しいのは、その後です。

  • 知る
  • 自分の仕事で試してみる
  • 分からないことが出てくる
  • 相談する
  • 一つ改善できる
  • その成功を他の人へ伝える

この循環が回り始めて、初めてツールは現場へ定着していきます。

研修はゴールではありません。現場が動き始めるためのスタート地点です。

5.成功事例がその部署だけで終わっている

DX推進では、一つの成功事例を作ることに注目しがちです。

しかし、会社全体で考えると、本当に重要なのはその先です。

例えば、ある部署がPower Automateを使って毎月5時間の作業を削減したとします。

それ自体は素晴らしい成果です。

しかし、「○○部でPower Automateを活用して業務効率化しました」という情報だけを社内へ流しても、他部署はなかなか動きません。

必要なのは、次の情報まで整理することです。

  • もともとどんな課題があったのか
  • 以前はどのように作業していたのか
  • 何を変えたのか
  • どのくらい効果が出たのか
  • 他部署でも同じような業務はないか

つまり、成功事例を「紹介する」のではなく、「再利用できる形にする」必要があります。

DX推進において、一つの成功を作ることと、その成功を組織へ広げることは別の仕事なのです。

人は「便利だから」ではなく「未来が見えたとき」に動く

ここまでの話を一言でまとめるなら、私はこう考えています。

人は未来が見えたときに動く。

「Copilotにはメールを要約する機能があります」と言われるより、「毎朝30分かけて確認しているメールを、まずCopilotで整理し、対応が必要なものから確認する働き方に変えられます」と言われた方が、自分が使っている姿を想像できます。

Power Automateでも同じです。

「業務を自動化できます」ではなく、「毎週金曜日にExcelを確認して担当者へメールしている作業をなくし、条件を満たしたら自動で通知されるようにできます」まで見せる。

すると初めて、「それならやってみたい」という感情が生まれます。

新しいツールの機能そのものが、人を動かすわけではありません。

その機能によって、自分の仕事がどう変わるのか。

その未来を想像できたときに、人は初めて新しいやり方を自分事として捉え始めます。

だからDX推進担当者には「翻訳する力」が必要になる

DX推進担当者は、単にITツールに詳しい人ではありません。

なぜなら、DX推進には少なくとも3つの異なる視点が存在するからです。

  • DX推進担当者はツールの可能性を見る
  • 現場は日々の業務を見る
  • 管理職は成果・リスク・組織運営を見る

この3者が同じものを見ているとは限りません。

だからDX推進担当者には、それぞれの視点をつなぐ役割が必要になります。

現場には、「このツールを使えば、あなたの仕事はこう変わります」と伝える。

管理職には、「この業務をこう変更し、この範囲から試します。期待できる効果とリスクはこれです」と伝える。

ツールの可能性を、現場には「未来の仕事」として、管理職には「意思決定できる材料」として翻訳する。

私はこれも、DX推進担当者の重要な仕事だと考えています。

ITの知識はもちろん必要です。しかし、ITに詳しいだけではDXは進みません。

技術と業務と組織をつなぐこと。

そこにDX推進担当者の価値があります。

DXを現場へ届けるための5つのステップ

STEP1.現場の困りごとを聞く

最初から「何をデジタル化したいですか?」と聞く必要はありません。

むしろ、「毎日の仕事で面倒なことはありませんか?」「時間がかかっている仕事は何ですか?」「同じことを何度も入力していませんか?」と聞いた方が、改善テーマは見つかります。

DXの種は、現場の「面倒くさい」の中にあります。

STEP2.未来の業務フローを描く

課題が見つかったら、すぐにツールの説明へ行かない。

まず、今の仕事がどう変わるのかを描きます。

BeforeとAfterを簡単な図にするだけでも構いません。

現場とDX推進担当者が同じ未来を見られる状態を作ります。

STEP3.小さく試す

いきなり全社展開する必要はありません。

一部署でもいい。一業務でもいい。場合によっては、一人の担当者からでもいい。

まず小さく試し、「本当に仕事が良くなるのか」を確認します。

小さく始めれば、管理職にとっての変更リスクも下げられます。

STEP4.成果を見える化する

「Power Automateを導入しました」は成果ではありません。

重要なのは、その結果です。

  • 月5時間の作業が1時間になった
  • 5工程あった作業が2工程になった
  • 担当者への確認メールが不要になった

など、仕事がどう変わったのかを見えるようにします。

STEP5.成功を横展開する

最後に、成功をその部署だけで終わらせません。

課題、改善方法、効果、導入条件などを整理し、「同じような仕事をしている部署はないか」を探します。

ここまでできて初めて、一つの改善が会社のDXへ変わっていきます。

現場の課題を知る → 未来を描く → 小さく試す → 成果を見せる → 横展開する

DX推進担当者が一人で全部抱える必要はない

ここまで読んで、「それを全部DX推進担当者がやるのか?」と思われた方もいるかもしれません。

その疑問はもっともです。

  • 現場へのヒアリング
  • 課題整理
  • ツールの選定
  • PoC
  • 管理職への説明
  • 研修
  • 問い合わせ対応
  • 案件管理
  • 効果測定
  • 成功事例の整理
  • 他部署への横展開

さらに、新しいAIやMicrosoft 365の機能も追い続ける。

これらを少人数のDX推進担当者だけで抱えれば、忙しくなるのは当然です。

そして皮肉なことに、問い合わせ対応や資料作成など目の前の仕事に追われるほど、本来やるべき「DXを推進する仕事」に使える時間がなくなっていきます。

だから私は、DX推進を特定の担当者の能力や頑張りだけに依存させるべきではないと考えています。

DX推進担当者が頑張り続けることではなく、DX推進が回り続ける仕組みを作る。

現場から課題が上がる。

改善を支援する。

成功を見える化する。

成功事例を共有する。

他部署がそれを見て、「自分たちでもできそうだ」と感じる。

そして、次の改善が生まれる。

この循環を作ることができれば、DXは一部の担当者だけの仕事ではなく、少しずつ組織の活動へ変わっていきます。

DX推進は、ツールを導入することではなく「未来を一緒に見せること」

DXが現場に届かないとき、「現場が変わってくれない」と考える前に、一度確認してみてください。

現場の人たちは、導入後の自分たちの仕事を想像できているでしょうか。

管理職は、なぜ今のやり方を変える必要があるのか、判断できる材料を持っているでしょうか。

そしてDX推進担当者自身も、ツールを広めることが目的になっていないでしょうか。

DX推進担当者には未来が見えている。

だからこそ、その未来を現場にも見える形にする。

ツールを説明するのではなく、未来の業務フローを見せる。

小さく試し、成果を見せ、その成功を次の部署へ広げていく。

私は、この積み重ねこそがDX推進を現場へ届ける方法だと考えています。


DX推進について、一緒に整理しませんか?

「施策を打っているのに、なかなか現場へ広がらない」

「改善したいテーマはあるが、案件が前に進まない」

「成功事例はあるが、他部署へ横展開できていない」

「DX推進担当者だけに負荷が集中している」

株式会社uniteでは、DX推進室の外部メンバーとして、DX推進担当者と一緒に現場へ入り、改善活動の推進から仕組み化・横展開まで支援しています。

まずは、現在どこでDX推進が止まっているのかを整理するところからでも構いません。

 

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